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2017年1月4日 小尾隆の日誌 本館
音楽に罪はない
そもそも何でぼくが差別問題を書くのかといえば、ぼく自身が外国に行った際に蔑まれたことがあったからだ。サンフランシスコではJAP!と、ロンドンではYELLOW,GO HOME!と言われた。むろん、逆に現地の人々との温かい交流もあったけれど、局地的にこういう言葉を浴びせられたことはぼくに人種を考えるきっかけを与えてくれた。昔の『ミュージック・マガジン』にはニューオーリンズのクラブにミーターズを観に行ったら冷たくされたという日本人の投書があったけ。それらには世界大戦の傷跡があり、血塗られた植民地主義の痕跡があり、”愛と平和”というスローガンでは到底埋めることが出来ない、歴史の生々しい現実を感じずにはいられない。差別撤廃をイシューに掲げて行進するのではなく、普段の暮らしのなかで克服していく、というのがぼくの大まかな社会的な態度である。実際に育った環境や生活風習が違う人種を理解し合うのは難しく、綺麗ごとだけでは済まされない。それらを公明正大な価値観や友愛の精神だけで解決出来るとは思えない。こう言っては誤解を招くかもしれないが、ロンドンでもパリでも人種ごとに居住区の棲み分けがあるのは、彼らのアイデンティティの保持であり、生き抜いていくための知恵だろう。画一的なユートピアを夢見るほうがかえって気味悪い。この数年ぼくの心を曇り空のように占めているのは、普段は交流のある韓国や中国の人たちと、ひとたび国家単位の問題(靖国や慰安婦)になると、何故あれほどまでに意見が二分してしまうのか?ということだった。日本人が犯した罪を認めつつ、一方では何故いつまでも謝罪しなくてはならないのか?もう十分謝ったではないか?という気持にもなる。その点音楽は素晴しい。人種差別がとりわけ激しかった60年代のアメリカ南部でも、マスルショールズのスタジオでは黒人と白人が協力し合って幾多のレコードを作った。メンフィスではブッカー・T&MG'sのような黒白混成チームがスタックス・サウンドに貢献した。アメリカン・サウンド・スタジオではボビー・ウーマックとレジー・ヤングが腕を競った。アラバマでのウィルソン・ピケットとデュエイン・オールマンの出会いなどは、最も美しい異人種同士の邂逅だろう。そのことをずっと忘れずにいたい。
 
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小尾隆
(オビ タカシ)
音楽著述業/1958年東京都生まれ。1990年から自分の歩調で執筆活動を続けている。代表著作に『Songs-70年代アメリカン・ロックの風景』 (1997年)があり、増補改訂された同書の2007年版が日本図書館協会の推薦図書に指定に。
趣味は大衆文学とウォーキング。ギタリストではデイヴ・メイソンやヘンリー・マカロックなど、”遅弾き”の人がとくに好きです(笑)。
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