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2017年1月8日 小尾隆の日誌 本館
ボブ・ディラン〜悲しきベイブ
昨年はボブ・ディランの年だった。ファンが浮かれ、メディアが騒ぎ、レコード会社が特需とばかり大喜びした。だけどもうこういう馬鹿騒ぎはいい加減にして欲しい。以前も少し書いたけど、ノーベル受賞後のディランの煮え切らない態度を見ていると、彼自身が”権威の側”に名を連ねてしまうことを誰よりも恐れているのではないか?と深読みしたくなる。そしてさらに重要なのは、エリオットがいてケラワックがいてギンズバーグがいて、そうした過去の偉人たちが築いてきた連綿とした系譜のなかにたまたま自分もいるのだ、と明言したディランの謙虚な心映えだろう。基本的にメディアと大衆の関係というのは、その年のニュー・イヤーズ・モデルを作り出し、熱狂し、飽きたら冷たく扱い、最後には三面ゴシップ記事で腐すという方向で成り立っている。よくテレビで「あの人は今どうしてる?」の芸能人特集が組まれる。かつて名を成した子役が現在東京ガスの検針員をやっている様が、以前はアイドルとして頂点に立った者が今は全国のスナックを渡り歩きながら歌う様が逐次報告される。当事者にしてみれば「もういい加減ほっといてくれ!」というのが本音に違いない。かつて60年代の中頃にディランがウッドストックで隠遁生活を始めたのは、自分を追い回すマスコミの喧騒から逃れるためだった。フォークの神様と崇められ、左翼運動に利用され、英雄伝説のなかで消費されてしまうことへの本能的な回避だった。そう考えると、最初の人気絶頂時に書かれた「悲しきベイブ〜IT'S AIN'T ME、BABE」の歌詞が、なお一層暗示的に響いてくる。俺の窓から出ていってくれせいぜい好きなやり方で出ていくがいい俺はきみが欲しがっていた男じゃないしきみが必要としていた男でもないんだ ベイブきみは言っていたね 誰か強い人を探していると正しかろうが間違っていようが 自分を守護してくれてどこのドアでも開けてくれるような人が欲しいと冗談じゃない俺はきみが求めているような男じゃないしきみが必要としていた男でもないんだ ベイブ(悲しきベイブ)実際には男女のすれ違いを動機に書かれた歌なのかも知れない。それでも最初のきっかけを超えて多義的な様相を帯び、聞き手それぞれの事情に当てはまっていくのがポピュラー音楽の面白さだ。今この「悲しきベイブ」を聞き直すと、まるで冬の朝のように孤独なディランの姿が浮かび上がってくる。かつては何も持っていない青年だった。今では多くのものを持っている大人だ。ノーベルを受賞しようがしまいが、夏は終わり、枯れ葉の季節がやって来て、いつか寒い朝を迎える。
 
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小尾隆
(オビ タカシ)
音楽著述業/1958年東京都生まれ。1990年から自分の歩調で執筆活動を続けている。代表著作に『Songs-70年代アメリカン・ロックの風景』 (1997年)があり、増補改訂された同書の2007年版が日本図書館協会の推薦図書に指定に。
趣味は大衆文学とウォーキング。ギタリストではデイヴ・メイソンやヘンリー・マカロックなど、”遅弾き”の人がとくに好きです(笑)。
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